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裏返された掛け軸/HN:河上龍泉

裏返された掛け軸/HN:河上龍泉


栃木県の少し南にいったところにある町に某旅館があった。今はもういろいろな問題でない旅館なのですが、仮に夢想館とします。

その夢想館に瀬川さんという老夫婦が泊まった。

中居さんに部屋に通されると六畳ほどの和室が二部屋あり、ベランダからは見晴らしのいいきれいな景色が見える。

問題は、奥にあるベランダ側の部屋。砂壁があってその壁に掛け軸が掛かっていた。

だが、掛け方がおかしい。明らかに掛け方は裏面がこちらに向いている。つまり裏返しで掛けられていた。

間違えて裏返しにしたのかなあと思ってその掛け軸をなおそうと手を掛けようとした瞬間、後ろから声がとんできた。

「それはいいんです。そのままにしておいて下さい」

中居さんが目を見開いてそう言う。なぜという自分にただ「規則ですから」と中居は言った。

まあ仕方ない、いいやと思ったが、中居が部屋を出たあと奥さんが掛け軸を表にしてしまった。どうやらそういうのを見ると我慢が出来ないというか落ち着かない性分らしい。

見ると真っ黒なスミで掛け軸の一面が塗りつぶされていた。なんなんだろう。そう思ったが、まあ特段気にせずに、夜を迎え風呂も入ったし寝ようということになった。

なぜか眠気が来ず、寝返りを何度もうつ旦那さんに比べて奥さんはぐっすり眠っていた。すると背中に異様に冷たい視線を感じた。

自分の後ろにはただあの掛け軸があるだけ。まさかなあとは思ったが、ためらわずぐっと半身を起こし掛け軸を見た。

すると驚いたことに掛け軸の中から所々傷だらけの青白い血管が浮かんだ白い手が出てきて、右手左手と出したときボサボサの髪の毛の人がぐーっと身を乗り出す形で掛け軸から出てきた。

その瞬間、まるで脱兎のように飛び起き素早く電気を点けた。だが、電気を点けるとあの人はいなくなっていた。

恐ろしさのあまりふるえながら奥さんを起こし中居さんに事情を話すと、お金はいらないから悪いが帰って下さいと言われた。

客になんなんだとは思ったが、帰り際全く大変なことをしてくれたという言葉を浴びせられた。

謎なのはあの掛け軸。すべてはあの掛け軸にあると思うがあの掛け軸の黒く塗りつぶされた表面にはなにが描かれていたのか。それはあの旅館の人間しか知らない。

最後の大変なことをしてくれたとは私らが掛け軸を表にしたからだと思うが、それがあの旅館の閉鎖に繋がったのかどうかはわからない。
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