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【心霊】俺と元栓と浴室の女/HN:ゼロサム

俺と元栓と浴室の女/HN:ゼロサム


南東の空に冬のダイヤモンドが輝いている。
シリウス、プロキオン、ポルックス、カストル、カペラ、アルデバラン…
そして、オリオン座のβ星リゲル…
昔は天の川がその中を縦断しているのが見えたらしいが
街明かりに邪魔されてすっかり…
天にも勝る光を、この地上で人が手にしたことにより失ってしまったもの…
星空をこんなにまじまじと見上げたのはいつ以来か…
地べたを眺めて生きるのに慣れてしまっていたな。
凍てつくような冷たい風が首筋をすり抜けた。
日が落ちてどんどん気温が下がっていく。
思わず首を竦め、背を丸めてしまう。
葉を落としてしまった街路樹が余計に寒さを募らせてくれる。

駅前通り…ここで俺はあの女に会った。
出勤途中で、ティッシュ配りに混じって立つ彼女に渡された小さな包み。
その夜に起きた怪異…
耳に残るシャワーの床を打つ水音…
網膜に焼きつく
キャラメル色の髪…白い陶器のような肌…
幽世(かくりょ)を棲処とする者…
人が死に魂としてこの世に残る存在…霊…幽霊…
遺恨…怨嗟…後悔…未練…
現世に留まらねばならない意味…
縛られ続ける思い…

そのどれも彼女は持ち合わせていない
俺にはそう思えた…
自然すぎる…感情がありすぎる…
生きた人間と見分けのつかない所作…言動…


彼女が俺の住むアパートの浴室に現れるようになって四日…
俺に何を訴えるでもなく
ただ、浴室で風呂に入り…鼻歌を奏で
時に洗濯までする…
実害はない…無いのだが…

通行人が立ち尽くす俺に不審そうな一瞥を送り通り過ぎていく。
だろうな…
おれは駅に向かって歩き出す。
ここに再び立ってみれば何か分かるかと思ったのだが…
どうしたら良いか考えはまとまらなかった。
幽霊…このままにしておけない。
できれば出て行って欲しい…
テレビ…心霊番組で観た霊能者が行う除霊という行為…
成仏させる…それがだいたいの決着。
俺も彼らに依頼すれば…彼女の結末もまた…
それは違う…
それは選んではいけない選択肢…







「お湯出ない…」

圧し掛かられるような重み…全身を襲う痺れ…
そして、抑揚の無い女の声…
深い眠りから強制的に覚醒させられた。
彼女が家に泊まるのは明日の筈…今日はなんだったっけか…
仕事が終わるのが早くて…ゆっくり湯船に浸かって…
寝たのは0時前だったな…
起き上がろうとしたのだが…おかしなことに…

「お湯出ないの…」

身体が…腕も脚も…指の関節ひとつ動かない。
四肢に力を込め…いや、力が入らないのか…
駄目だ…もしかしたら…
これ…これが金縛りというものなのか?

「お湯が出ない…」

仰向けで寝ている腹の方から声がする。
動かせなかった首が…何故か今は動く…首以外は…まるで駄目だ…
気になる下腹辺りに、布団の上に何かいる…
自ら光を放って…闇に浮かび上がるキャラメル色の髪…
不機嫌そうな表情を貼り付けた…白い美貌…
布団の上に女の生首が乗っていた。
悲鳴をあげたいのだが声帯すら自由にならない。

「お湯が出ないの…」

ま、まさかこういう手段に打って出るとは思わなかった。
奴は風呂に入りたい欲求で風呂場に出現する…
ならば水そのものを断ってしまえば
シャワーを浴びられず諦めて出て行ってくれると思ったのだが…
く、くそ……古今のいくさでも基本とされる
敵の糧道を断ち無力化…戦闘継続を断念させるという戦術を使ったつもりが
寝る前に水道の元栓を閉めてしまったことが仇に…
クレームを付けにくるとは思わなかった。
はっきり言って逆ギレじゃねーのかよ!?

「い、いやだ…と、言ったら?」

おお、声が出た!もしかしたら奴は俺の身体を自在に操れる…というのか?
擦れて声…とは言いにくいが、なんとか搾り出せた。
くそ!この状況を打破し、なんとか反撃に移れないものだろうか…
俺は家主だぞ?ガス、水道、電気に至る全てが俺のものだ!
そう、この室内にある水一滴、酸素元素ひとつまで!

「衝動的にこの辺を噛む」

奴がいる位置…衝動的に俺の身体に噛みつくって…そこか!?
そこに噛み付くというのか!?

「か、噛むな!!」

「耳まで裂けた口…白く尖った鋭い歯列…極限まで開かれた顎…
 衣類ごと喰らいつき…噛み千切る…降り飛沫く鮮血…飛び散る肉片…
 赤く染まった唇から滴り落ちる…薄い脂肪層…食いちぎられた筋肉…
 異様な断面を見せる…剥き出しになって爆ぜる腸…
 いとおしげに舌を這わす…痙攣する四肢…
 私はあなたの身体にむしゃぶりつき…何度も何度も歯を立てる…」

運良く命は取り留めたとしても男としての俺の人生が終わっちまう!
ていうか…お前…俺を食う気か!?

「お湯出して」

白旗だ…完全敗北だ…無条件降伏だ…こうなっては是非も無い…
天は我を見放した…

「出すから噛むな…」

「わかった」

全身から強張りが消えた。
ズルリと布団の中から…まるでトンボが羽化するみたいに
白い裸身が現れる。
ベッドの上に仁王立ちする…
キャラメル色の長い髪…バスタオルが身体に巻かれていた…
風呂入ろうとして全部脱いじまったんだな…
部屋を出て行く後姿…こんなことされたのに
可愛いと思ってしまった。


「仕方ないな」

部屋を出て外にある水道の元栓を開けにいこうと廊下を
洗面所と浴室の前を通ると…
明かりの点いた風呂場…床を打つ水音…
曇りガラスに映る…
お湯出てんじゃん…

「お、お前!自分で出来るなら最初からそうしろよ!?」

「あ…」

元栓のコックが開いてるのを確認し
俺はドアを開けて浴室へ怒鳴り込んだ。
目が点になる…俺の前で身を強張らせる
一糸纏わぬ…水を吸った長い髪が絡みつく裸身…

「きぃぃいいいいいいやぁぁああああああああああああ!!!!」

悲鳴と同時に眼球にお湯が浴びせられた。
さらに重いものがぶつかって…
俺はその場で仰向けにひっくり返る。

「変態!変態!変態!変態!変態!変態!変態!変態!!」

「あちちちちちちちちちちちちちちち!!」

熱湯が顔に降り注ぐ。
あの女!お湯の温度を上げやがったな!!
どうにかしてこの攻撃から逃げなくては…
シャワーの射程外へ…手足を駆使して浴室から脱出を図ろうとしたのだが…
奴は俺の腰にどすんと乗っかってきた。
マ、マウントポジション!?脚に奴の脚が絡みついてくる。
熱湯攻めが逸れ…回復した視界に…とんでもないものが…
馬乗りになった彼女の…

「綺麗に切り揃えられた…朝露に濡れる芝生…」

「変態!変態!変態!変態!変態!変態!変態!変態!!」

熱湯攻撃は終わり…今度はシャワーのヘッドを逆手に握り締め
俺の顔面を乱打してくる…手で庇おうとするのだが
ヘッドを持たない左手で外されてしまう。
容赦ない打撃…
そしてついに見た…
キャラメル色の髪によって見え隠れする小ぶりな胸の先に実る…薄い桃色の…
達成感…そして妙に増大する幸福感…なんだこの感覚は…
殴られている内に痛みが感じなくなってきた。
身体に力が入らない…視界がぼやけ…思考が停止し…
薄れ行く意識の中で…
俺はもしかしたら
途方も無いM体質なんじゃないだろうかと思った。





おわり


2014年05月25日(日) 16:32
ゼロサム ◆CkdVqA2Q
※天通の投稿広場より掲載
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コメント

[4071]
続編希望!
[3835] ブラボー[s:20295][s:20295][s:20295][s:20295][s:20295]
またしても- 素敵な詩の表現 エクセレント 幽霊の逆ギレに ビックリ かなりの お風呂や洗濯好き 次回 その 幽霊が、料理好き なら 良い 嫁さんだね
[3831]
ちっぱいになんか萌えた。
[3829] 元栓
やあロビンミッシェルだ。

ゼロサム先生、もう一度言わせてくれ…有り難う!と。

↓↓氏、…ひひ…フルメタルジャケット…懐かしいな!…ひ…
[3826]
幽霊でも襲いかかる不埒な男じゃなくて良かったのかな…
女に縁がないキモオタくん達、もしかしてうらやましがるのあなぁ?
[3825]
朝露に濡れる芝生wフルメタルジャケットか?

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