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【怪談】ロングコートの女/HN:ロビンM

ロングコートの女/HN:ロビンM


今から5年前、夜中に翔吾から電話があった。

会社から近いという単純な理由で古い五階建てのマンションに引っ越したばかりだったのだが、彼は酷く怯えていた。

翔吾「聞こえる‥‥泣き声‥なぁお前にも聞こえるだろ?‥怖えよ…」

今にも泣き出しそうな声で訴える翔吾からはいつもの明るさは完全に消えていた。

どれどれと受話器越しに耳を済ませてみたが何も聞こえて来ない。しかし翔吾の異常とも思えるビビリっぷりに、夜も遅かったのだが仕方なく彼の部屋へと向かう事にした。

引っ越しを手伝った時は昼間だったのでなんとも思わなかったのだが、夜見るとヤケに不気味なマンションだった。

チン‥

「えっと、たしか503号室だったかな‥」

ベルを押そうとした刹那、音もなく隣の部屋のドアが開いた。

すると身長の低い‥150センチぐらいだろうか? 赤ん坊を抱いた30代ぐらいの女がフラッと出てきた。

一瞬こちらを見たので、軽く会釈をしたが、彼女は無言で手すりに近寄ると下をジッと覗きだした。

ロ「ふん気持ち悪りい女」

ベルを鳴らして翔吾を待っていると

「‥ごめんなさい…」

背後から囁くような声がしたので、振り返ってみると彼女は忽然と消えていた。

ロ「やべっ飛び降りたか?」

慌てて下を覗いてみたものの、暗いため人の姿は全く確認できなかった。

ロ「うわーなんだ今の‥?もしかして人間じゃなかったのか?」


今あった事を翔吾に話すと、引っ張るように俺を部屋へと引き入れた。

翔吾「ヤバい!ヤバい!隣から聞こえる‥ほら赤ちゃんの泣き声‥!赤ちゃん!赤ちゃん!何でロビンには聞こえねんだよ!!」

ぶるぶると震えながらそんな事を繰り返す翔吾、声が聞こえるというその壁に耳を当ててみたがやっぱり俺には何にも聞こえない。

しかし暫くすると

ごつん…ごつん…

ごつん… ごつん…

と何かを壁に打ち付けるような微かな音が聞こえてきた。そして更に耳を澄ましていると

『ヴーーー 』

という呻き声のような低い押し殺したようなものも聞こえ出した。

その声は壁のすぐ向こう、薄いベニア板一枚隔てたぐらいの距離から聞こえている感じがした。

ロ「聞こえる!ガキじゃねえけど声がすんぞ!」

翔吾「だろ?大家さんが言うには隣はずっと空室の筈なんだよ!しかもここ鉄筋で壁分厚いから声が聞こえるのはおかしいんだ!」

この時俺の好奇心と闘争本能に火が着いてしまった。

隣室のベルを何度も鳴らしてみたが返事はない。無理やりこじ開けようとしたが鍵が頑丈で開かなかった。

マンションの下に降りて中庭をくまなく確認するも女の姿は無く、怪しい物といえば大きなマンホールのような物があるだけだった。

そして俺は確信していた。隣室は間違いなくお化け物件だと。

嫌がる翔吾を連れて慎重に手すりを伝って隣室のベランダへと移動した。窓越しに部屋の中を懐中電灯で照らしてみるとガラーンとしており、確かに人が住んでいる気配は全くないようだ。

ダメもとでドアに手をかけてみるとラッキーにも鍵はかかっておらず中へと入る事が出来た。部屋には古い鏡台だけが残されていて、それ以外には家具という家具は見当たらなかった。

とりあえず携帯で写真を三枚程撮った所でそれに気付いた。壁中にビッシリと貼りつけられた無数の白い紙…

ロ「お札のプラネタリウムや?♪」

俺の渾身のギャグは見事に滑り、翔吾を見ると情けない事に恐怖で座りこんでしまっている。

ロ「フン、情けない奴め…」

よく見ると鏡台にも沢山お札が貼られていた。

ロ「こいつが怪しいな」

なぜかこの時、閉められた鏡台を開けないといけないという使命感のような物が湧いてきて、俺は観音開きのそれを開けてみる事にした。

「ぎいいいいいいい」

錆び付いたような軋む音と共に異様に綺麗な鏡が姿を見せた。俺の手は自分の意識を他所に、何故かガタガタと震え始めた。

それが全開に開いた瞬間、右の鏡に映っていた。赤子を抱えた女。

ロ「で、出た!」

振り返って懐中電灯で照らすと何もいない。しかしもう一度鏡を見ると確かにそこに映っている、ユラユラと佇む茶色のロングコートを着た女が…

鏡越しによくよく見てみると、抱いている赤ん坊はミイラのように干からびた色をしており、なぜ赤ん坊だと思ったのかが不思議なぐらいのだだの塊に思えた。

ごめん…なさい…
ごめんなさい…
ごめん…なさい…
ごめんなさい…

その女はか細い声で呟き出した。そしてゆっくりと伏せていた頭を持ち上げながら、声のトーンが徐々に上がっていった。

…ごめん…なさい…!
…ごめんなさい…!
…ごめんなさい…!
…ごめん…なさい…!!

そして完全に上げきったその白い顔には一切の皮膚は無く、洒落にならない髑髏(シャレコウベ)だった。

ロ「が、骸骨!ぎゃっほい!」

さすがの俺も慌てて鏡を閉じ、翔吾の襟首を引っ掴んで玄関のドアを蹴破って外へと避難した。

鏡台の窓を閉める瞬間、確かに聞こえたんだ。女の狂ったような高笑いが…

エレベーターを待ちながら状況を必死で整理していると、突然翔吾が俺の手を振り払い、先ほどの部屋に向かって廊下を走り出した。

翔吾「助けなきゃ!助けなきゃ!」

ロ「お、おい!待て!」

玄関に入った所でようやく追いつき、暴れる翔吾を羽交い締めにしていると、ガタガタガタガタと部屋の中から音が聞こえてきた。

『助けて…』

『出してぇ…』

『助けて…』

『出してぇ…』

次の瞬間、『ガターーんっ!!』

と鏡台の倒れる音がして、部屋の中はシーンと静まり返った。

暫くの沈黙…

れた…

でれた…

デラレタ…デラレタ…デラレタ…デラレタ…デラレタ…デラレタ…デラレタ…デラレタ…デラレタ…

ズルズルと何かを引きづるような音が、暗い部屋から玄関まで響いて来た。

目の焦点が合っていない翔吾に往復ビンタを浴びせると、やっと正気に戻ったので二人で全力で走って逃げた。

なんとか俺の家まで辿りつき、暫くして落ち着いたきた俺達は、先ほど撮った携帯の写真を確認してみる事にした。

すると…そこには全く見に覚えのないものが映っていた。

一枚目は霧がかった赤い鳥居。二枚目は古い井戸のような穴。

そして三枚目はなぜか俺と翔吾を後ろから写した写真…あの部屋に入り、俺が鏡台を開けてしまった瞬間が映っていた。

しかも、俺の後ろで座り込んでいる翔吾の体中に肘から上だけの白い無数の手がありとあらゆる部分に絡みついており、よく見るとその全ての手には『凡字』のような物が浮き出していた。

それを見た翔吾は気を失ってしまった。


翌日、翔吾を彼の実家へと送り届けたのだが、放心状態というか全く感情がなく魂が抜けてしまったような目をしていた。

もちろん両親に事情を話したが、あまり信用されてないようで、「病院に連れて行く」とだけ言っていた。

それから数日後、翔吾は行方不明になった。

まぁ結果から言うと、翔吾は死んじまった。電車に飛び込んじまったんだ。遺体は損傷が酷く、二度と奴の顔を見る事は出来なかった。

お前のせいだ!と翔吾の親父からボコボコに殴られたが、そんな事はどうでも良かった。

喪服で並んだ連中の後ろの方に、茶色いロングコートを着た女が俺を睨んでいた事の方が正直キツかったからだ。

翔吾、ごめんな…

【了】


後日談…

マンションの中庭にあったマンホールの下は古い井戸で、中から白骨化した骨が2体発見されていたそうだ。

ロングコートの女との因果関係は不明だが、 俺は現在そのマンションに近づく度に吐き気がする。
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コメント

[2227]
やあロビンミッシェルだ。
ありがとう、
今年はロクな事が無かったが
君の一言で救われたよ…
[2206]
巧いと思う。構成も文章も。
[1858] 感想をば

怖い。怖い。怖い。

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