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【心霊】悟




もう随分昔の話だ。

小3の二学期初日にS・悟という男が転校して来たんだ。田舎の学校で、出て行く生徒はいても転校して来る生徒は稀だったのでその日の事は良く覚えている。

とにかく汚い奴だった。まず鼻水を垂らしている。いや、正確に言うと、かつて液状だった物がゴリゴリに固体化し、それを新しいやつが濡らしている。

ランニングシャツの色が地肌とあまり変わらない。そもそも、戦時中じゃあるまいし下着で登校すんなよって話だ。

異臭が尋常じゃない。あれは間違いなく乾燥した大小便の臭いだった。

ま、簡単に言えば、人間の形をした汚物ってレベルだった。

普通に考えて、そんな奴は嫌われる。しかし悟君、女子には敬遠されたが、男子からは一定の評価を得る事に成功する。

身なりから予想はしていたものの、彼の貧しさが想像を絶するものである事を初日に知ってしまった事が大きかったように思う。あれが何日か後だったら扱いも変わっていたかも知れない。

何て、何て可哀想な奴なんだ…

生意気盛りの小坊を絶句させる程の彼の住まいとは?

転校するずっと前から通学途中にポツンと立っていた農機具小屋だったんだ。

「絶対に電気通ってないよな?」

「トイレってあんのか?」

「もしかして野糞?」

「あいつの親って何してんだろ」

「犯罪者とか?」

悟と別れた後は彼の話で持ちきりだったが、見下すような奴は一人もいなかったと記憶している。おそらくみんなが、自分の幸せを噛み締めていたんじゃなかろうか。


彼の処遇マニュアルは○○神社に立ち寄ってみんなで相談して決めた。

・女子に家の話はしない事(これはすぐにバレてしまった)

・多分親父はヤクザで組に追われている。だから働きにも行けない。金が無いからオヤツも買えない。明日から各自お菓子持参してここで一緒に食べよう

・給食の時は腹一杯食わしてやろう

あと、銭湯の息子には彼の無料利用を約束させ、服とズボンは浩介と隆利が二着ずつやる事に。俺は洗濯を受け持った。

だが翌日、それを悟に話した所即断られる。

「うちの息子は乞食じゃねえ」過去に父親が、学校に怒鳴り込んだ事があるらしい。

逃亡ヤクザ説も話したが、肯定も否定もせず困ったような顔して笑っていた。

小屋は叔父さん持ち物でしばらくの間使わせて貰うとの事。

「えー?叔父さんって冷たくね?」

俺が聞くと更に困った顔をして悟は答えた。

「迷惑掛けてるから」


その日の放課後、まだ暑かったので川で泳ごうって話になった。浩介が給食室からママレモン盗んで来て「泳ぐついでにこれで服洗え。くせえぞ悟」と命令する。

「ありがとう」

「服をやる」と言われた時には見せなかった笑みを浮かべて悟はそれを受け取ってた。



親父にバレなきゃいいんだろ?て事で神社で菓子食ったり、皆で銭湯に行ったりはしていた。

当時流行ったファミコンで遊んだりもしたが、悟が最も熱中したのは将棋だった。当時の棋力がどれ程だったのか判らないが、大人と指してもあまり負けなかったので二級くらいはあったと思う。

その俺が一ヶ月で全く歯が立たなくなった。駒の動かし方さえ知らなかった悟にだ。

勉強はさほどでもなかったから意外だった。多少ムカついたが中々やるじゃんって気持ちの方が強かった。「俺に勝ったら菓子やるぜ?」と誘惑し覚えさせた将棋だったが、「わざと負けてない?」と言われた時は流石にショックだったな(笑)。



悟が、親父に殴られたとかで鼻にティッシュ詰めて学校に来た日があった。その日は丁度雅樹の誕生日でクラスの男子全員(8名)が彼の家に集まる事になっていた。

雅樹はケーキ屋の長男。お誕生日会は毎年恒例の行事だったのだ。

「雅樹君のお母さんに鼻見られるのやだ」

異様に恥ずかしがる悟の手を無理やり引っ張って連れて行った覚えがある。

お好み焼き食ってケーキ食って、みんなでトランプしていた時だった。

誰かが聞いたんだ。

「悟、お母さんおらんみたいやけど死んだんか?」

悟は彼独特のはにかんだ顔で頷いた後、皆を凍り付かせた。

「首吊って死んじゃった。でも、いるよ。ごめんねごめんねっていつも謝ってる。今もいる」

誰も追及しなかった。悟が嘘を付く奴じゃないってみんな知っていたから。

個人的には、不思議と怖いとは思わなかった。

良かったなあ寂しくなくて、という感じかな。

今にして思えば、悟は頭が良くて優しくて、凄惨な環境の中でも、中東の避難民の子供みたいに明るく逞しかった。

人間の形をしたゴミは、まぎれもなく聖人だったのだ。

死んだ母親が見えると白状した事で、自らの霊感を隠す必要が無くなったのだろう。それからの悟は奇妙な発言をする事が多くなる。

「河童はいるよ」とか「宇宙人はあの世を通って地球に来てる」とかね。

そうそう、悟が聖人だと確信した出来事があるんだ。

いつも溜まり場にしていた神社で、浩介が本堂に土足のまま上がった時の事。

「ここはね、本当に神様がいるから、謝った方がいいよ」

珍しく悟が意見したんだ。

「神様ってどんな?」

すかさず聞く浩介。

「子供みたいな、でも子供じゃないんだ」

「証拠は?」

誰かが問い詰めようとした時だった。

カラーン

誰も触れてないのに、神社のデカイ鈴が鳴ったんだ。みんな唖然として鈴を見ていた。

その時、俺は見逃さなかった。悟が鈴じゃなく、鈴から垂れ下がる太い縄を見てニコッと笑うのを。

意外に頭が良い霊能者悟は、なんだかんだで存在感を増していった。清潔感も合格ラインを越え、女子からも好意を持たれ始める。まあ女子は、神社の話に食い付いたのがきっかけだったんだが。



十一月の終わり頃だったか、そんな悟が学校を休んだ。

「あいつんとこ石油ストーブって言ってたよな?」

「油買えなくて風邪引いたんじゃね?」

「行って見る?」

「やだ親父恐いし」

「だよな」

俺は二、三度父親を見ていた。元ヤクザ説を裏付けるような人相だった。

「今日は晴れてるから仕事(日雇い労働)に行ってんじゃね?」

「声だけでも掛けてみる?」

「だな」

その日は朝から綿雪がちらつく寒い日だった。俺たちは小屋の前で「悟くーん」と口々に声を掛ける。

返答は無い。

その時の、妙にザワザワする感覚を忘れられない。

死んでるんじゃないか?何故かふと、そんな気がしたんだ。

止めようとする仲間を制して俺は今にも崩れ落ちそうな板戸をギギィと引いた。

父親はいなかった。そして悟は、鼻から大量の血を流して倒れていた。

生きているのか確かめるのが怖かった。多分みんな同じ気持ちだったと思う。

悟の身体には触れもせず、俺たちは一斉に小屋を飛び出し学校に走った。涙が止まらなかった。

それからの事はよく覚えていない。

教師や親たちは、悟は無事で施設に預けられたという話に持って行きたかったようだが、生徒は皆、ニュースや噂で父親に殴り殺されたのを知っていた。何年後かに親に確認した所、小屋で既に息絶えていたそうだ。

神様と仲良しになれるような人間が何であんな人生なのか俺には解らない。

本当にいい奴だったのにね…




帰省した時には必ず、あの神社にお参りするんだが、神様なんか見えないし、(いらしたら鈴を鳴らして下さい)と何度お願いしても無視されてばかりだ。

でも、本物がいると思うと自然と気が引き締まるよね。

だけど時折、ふっと怒りが込み上げる事があるんだ。

「何で助けなかった?」てさ。



合掌


2015年02月03日(火) 09:48
天通の七不思議さん ◆-
※天通の投稿広場より掲載
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コメント

[5801]
0.血苺さん♪コメントありがとう!!俺思うんですけどね、多分霊界って壮大な許しと和解のドラマなんですよ。
何百年後か何千年後か判らないけども、父親は、自分を全く恨まずに逝った息子に会う日が必ず来る(俺は輪廻転生否定論者なんで)。それを知ってるから神様は助けなかった。

この世なんて一瞬なんですよ。なーんてね、どっかのイカサマ教祖みたいな事言ってみた(笑)。
[5800]
悟くん、ALWAYSの淳之介みたいですね…

可哀想な最期だけど、もしかしたら亡くなったお母さんが連れて行ったんじゃないでしょうか…もっと幸せな場所に生まれ変われるように。

同級生の男子たちには、きっと感謝していると思います。

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